2020年

 正月明けは自分の季節行動として水上勉氏の「一滴文庫」を訪問する。尊敬する文豪が残した文庫に座り込むと気持ちが落ち着く。ぶらりと座っているだけで今の自分に足りないものを教えてもらえる気がする。この「一滴文庫」は若狭大飯町にあり、訪問時期はなんと行っても冬がいいように思っている。綺麗に磨かれた黒い床板。水上氏だけに厳しい若狭の地を想い描くには床板が冷えて足にこたえる季節がいい。昨秋は吉岡幸雄先生が亡くなってしまったが、先生から水上氏について話を聞いた事がある。興味深かったのは自身が編集者時代に水上氏に会っていた頃の実話。面白かった。もっと先生と語りたかった。もはや私は成長もしなくなった年齢なだけに、残り時間はなるだけ無様な行いだけはしないよう自分に祈ってきた。

 昨年の終わり頃、Yahoo Japanで2本の記事を書かせてもらう機会を得た。久しぶりに知らぬ土地へ行き、そこで仕事をしている人たちを撮らせてもらった。一人で持てるだけの機材を抱え、その土地へふらりと行ってみるというものだったが、実際に大変だったそれが自分が忘れていた何かを思い出す手助けとなった。いつになっても何事も挑戦で、構えずやってみる事にある価値があるのじゃないのか。2010年に吉岡幸雄先生を撮らせてもらった「紫」は、始めがこうだった。そう思うと自分はいつも手探りばかり。やれ、いつか本質にたどりつくのだろうか…

 色んな意味で心待ちにしていた2020。どういう1年になるか楽しみではある。しかし年始の国際ニュースは物騒だった。予想もしてないタイミングで世界が変わってしまう可能性があるという事だ。後悔ないよう時間を生きたい。近年は1作品と向き合う時間が長く体力維持が難しくなってる気がする。それを維持できる術を身に着ける必要があると感じている。さあ、今年こそ「長崎の郵便配達」を発表できるよう気を引き締めて。一歩一歩。

 

 心をこめて、勇気ある制作を。素晴らしい仲間たちと共に。