鯖街道 – 姫田忠義

 

春の雨、鯖街道にていまにもずり落ちそうな茅葺をかぶった古民家の店を見つけた。「布」と墨文字の旗がでている。茅には緑の苔が生え、くちゃっとなった茅の茶とでまだらになっている。十分に力を込めてぶ厚い扉を手にしたところ、案外すんなりとひらいてしまい過剰な力は勢いよく私を入店させた。中にいた店主らしき髭の男性がお盆を持った姿のまま目を大きくして突然の客を見入っている。

暗い店内は古物の山。今日は雨でお客が少ないのか店主がお茶を入れてくださった。味は識別できない薬草の風味がした。「ゆっくりご覧ください」笑顔で店主がこちらをみている。着物や家具、陶器、ガラス、農具、化石…ゆっくりできない圧迫感。よくみると近所の野菜や山菜、本、パンフレットもある。

いろんな物の隙間から「姫田忠義」の本が見えた。手に取ろうとした瞬間、かかさず店主が姫田さんの事を語り出した。話によると姫田さんは度々こちらにお越しになっていたという。店主はここで仲間たちと姫田作品の上映会もしたそうだ。店主が話すスピードからは姫田さんの事を尊敬していた事ことが充分に伝わってくる。

街道ギリギリに佇む茅葺の店。車たちは路面のでこぼこにたまった雨水をはねて店前のカーブを走り去る。「当時ここで何を観ていたのだろう」と姫田さんが繰り広げた広大なフィールドワークに恐れをなし、まさかの地での出会いを感じながら、新緑の街道を車でそのまま南下した。2016年4月。

 

 

 

 

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